【獣医師解説】7歳を過ぎたら注意!猫の「隠れ腎臓病」を早期発見するための血液検査・尿検査の重要性
「うちの猫も7歳を過ぎたけれど、毎日元気に走り回っているし大丈夫」
「最近、お水をよく飲むようになった気がするけれど、暑いからかな?」
愛猫のそんな小さな変化、見逃していませんか?
猫にとって慢性腎臓病(CKD)は、特に高齢になるほど注意したい代表的な病気のひとつです。ペット保険会社の統計でも、猫では腎臓・泌尿器系疾患が主要な死因のひとつとなっており、年齢とともにその割合が高くなることが報告されています。
慢性腎臓病の怖いところは、腎機能がかなり低下するまで目立った症状が現れないことがある点です。
猫が7歳を迎えた頃からは、見た目が元気でも定期的な健康チェックがより重要になってきます。
今回は、元気に見える今だからこそ知っておきたい、猫の慢性腎臓病の初期サインと、早期発見のための血液検査・尿検査の重要性について獣医師が分かりやすく解説します。
■ 1. なぜ猫は腎臓病になりやすいのか?
猫はもともと乾燥した環境に適応してきた動物で、少ない水分でも生活できるよう、尿を濃縮する能力に優れています。
一方で、猫では加齢とともに慢性腎臓病の発症率が大きく上昇することが知られています。
近年注目されているのが、AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage:CD5L)というタンパク質です。
AIMには、腎障害によって生じた細胞の残骸(デブリ)の除去を助ける働きがあると考えられています。しかし猫のAIMは血液中のIgMというタンパク質と非常に強く結合する性質があり、腎障害が起こっても十分に遊離しにくいことが研究で示されています。
その結果、AIMが尿中へ移行しにくく、尿細管内に生じた細胞の残骸を効率よく除去できないことが、猫が腎障害から回復しにくい理由のひとつではないかと考えられています。
ただし、猫の慢性腎臓病の発症には加齢、遺伝的要因、過去の腎障害、高血圧、尿路疾患など多くの要因が関与しており、AIMだけで慢性腎臓病の発症を説明できるわけではありません。
一度失われたネフロンを、現在の獣医療で完全に元通りにすることは困難です。
だからこそ、「いかに早く異常を見つけ、残された腎機能を長く守るか」が非常に重要になります。
⚠️ 【閲覧注意】変形した腎臓の臨床写真(クリックで表示)
※実際の病変組織・手術時の写真を含みます。苦手な方はご注意ください。
▲ 慢性腎臓病の進行により変形が認められた腎臓の症例写真
腎臓病に注意したい猫の特徴
以下に当てはまる猫ちゃんでは、より積極的なチェックをおすすめします。
- 高齢の猫
- 腎疾患の発症リスクが高いとされる品種や家系
- 甲状腺機能亢進症、高血圧、心疾患などの持病がある
- 尿路結石や尿道閉塞などの既往がある
- 過去に脱水や急性腎障害を起こしたことがある
- 腎毒性物質への曝露歴がある
ユリ属・ワスレグサ属の植物は猫に重篤な急性腎障害を起こすことがあります。花や葉だけでなく、花粉や花瓶の水などへの曝露も危険です。猫が生活する環境には置かないようにしましょう。
■ 2. 「隠れ腎臓病」の初期サイン
腎臓は、ある程度機能が低下しても症状が現れにくい臓器です。
食欲不振、嘔吐、著しい体重減少など、飼い主様がはっきり異常に気づく頃には、慢性腎臓病がかなり進行していることもあります。
そこで重要なのが、日常生活の小さな変化です。
【腎臓病でみられることのある初期サイン】
- お水を飲む量が以前より増えた
- オシッコの量が増えた
- 猫砂の固まりが以前より大きくなった
- 少しずつ体重が減ってきた
- 筋肉が落ち、背骨や腰骨が触れやすくなった
- 毛艶が悪くなった
- 毛づくろいの回数が減った
- 食欲にムラが出てきた
- 活動量が低下した
特に多飲多尿は、慢性腎臓病でよくみられる症状のひとつです。
体重の変化も重要です。
大規模な調査では、慢性腎臓病と診断された猫で、診断の数年前から徐々に体重が減少していたことが報告されています。
そのため、
「食べているのに少しずつ痩せてきた」
という変化は見逃さないようにしましょう。
ご家庭でも月に数回程度、同じ条件で体重を測って記録しておくことをおすすめします。
猫ちゃんを抱いて人用の体重計に乗り、
「飼い主様+猫の体重」-「飼い主様の体重」
で測定することもできます。
短期間で明らかな体重減少が認められる場合は、早めに動物病院へご相談ください。
猫の水分摂取量は、食事内容によって大きく変わります。
ウェットフードを多く食べている猫では、食事そのものから多くの水分を摂取するため、飲水量は少なくなります。
そのため、単純な飲水量だけで判断するのではなく、
「以前と比べて明らかに飲水量が増えていないか」
を見ることが大切です。
飲水量が著しく増えている場合は、慢性腎臓病だけでなく、糖尿病や甲状腺機能亢進症など他の病気が隠れている可能性もあります。
■ 3. 早期発見のカギを握る「血液検査・尿検査」
見た目には元気な段階で腎臓の異常を見つけるためには、定期的な検査が重要です。
1. 血液検査(クレアチニン・SDMA・BUNなど)
腎機能を評価する代表的な血液検査項目が、クレアチニン(Cre)です。
ただしクレアチニンは腎機能がある程度低下してから上昇するため、早期の腎機能低下を見逃すことがあります。
そこで現在、クレアチニンと併せて利用されているのがSDMAです。
SDMAはクレアチニンより早い段階で上昇する場合があり、特に早期の腎機能低下を評価するうえで有用です。
またクレアチニンは筋肉量の影響を受けるため、筋肉量が減少した高齢猫では腎機能を過大評価してしまうことがあります。
SDMAはクレアチニンと比較して筋肉量の影響を受けにくく、両者を組み合わせて評価することで、より正確な腎機能評価が可能になります。
ただし、SDMAも単独で慢性腎臓病を診断できる検査ではありません。
脱水状態や他の疾患の影響も考慮しながら、クレアチニン、尿検査、画像検査、過去からの数値の推移などを総合して判断することが重要です。
さらに、
- リン(P)
- カリウム(K)
- 赤血球・ヘマトクリット(貧血)
- カルシウム(Ca)
- 血糖値
- 甲状腺ホルモン(T4)
なども必要に応じて確認します。
特に血中リン濃度の管理は慢性腎臓病の治療における重要なポイントです。
2. 尿検査(尿比重・尿タンパク・尿沈渣)
血液検査と同じくらい重要なのが尿検査です。
- 尿比重:腎臓が尿を濃縮する能力を評価します。腎機能低下の早期から変化する場合があります
- 尿タンパク・UPC:腎臓からタンパク質が過剰に漏れていないかを調べます。持続的な腎性タンパク尿はCKDの進行や予後と関連する重要な指標です
- 尿沈渣:血球、結晶、細菌などを確認します
- 尿pH:尿の酸性・アルカリ性を評価します
血液検査だけでは分からない情報を尿検査から得られるため、腎臓病の評価では血液検査と尿検査を組み合わせることが非常に重要です。
お家でのオシッコの採り方
- 猫砂を一時的に取り除き、きれいなトイレに排尿してもらう
- ペットシーツを裏返し、防水面を上にして採尿する
- システムトイレでは下段のシートを外して採尿する
- 吸水しない採尿用猫砂を利用する
採取した尿は清潔な容器に入れ、できるだけ早く動物病院へお持ちください。
すぐに持参できない場合は冷蔵保存し、採尿した時間をスタッフへお伝えください。
なお、細菌感染の有無を正確に調べる尿培養検査などでは、病院で膀胱穿刺による採尿が必要になる場合があります。
3. 血圧測定
慢性腎臓病の猫では高血圧を合併することがあります。
高血圧が続くと腎障害をさらに進行させるだけでなく、眼、脳、心臓などにも障害を起こす可能性があります。
特に猫では、高血圧によって網膜出血や網膜剥離を起こし、突然視力を失うことがあります。
「急に物にぶつかるようになった」
「瞳孔が開いたままになっている」
といった症状があれば、早急な診察が必要です。
4. 画像検査(超音波検査・レントゲン検査)
超音波検査では、腎臓の大きさ・形・内部構造を確認できます。
血液検査だけでは分からない、
- 腎臓の萎縮
- 腎結石・尿管結石
- 水腎症
- 腎盂の拡張
- 腎嚢胞
- 腫瘍
などを発見できることがあります。
■ 4. 7歳を過ぎたら定期的な健康診断を
猫は人間よりも速いスピードで年齢を重ねます。
国際的な猫のライフステージ分類では、7〜10歳頃は成熟期、11歳以降はシニア期とされます。
つまり7歳は「もう高齢だから手遅れ」なのではなく、
「これから起こりやすくなる病気を早期発見するため、健康管理を一段階上げる時期」
と考えるとよいでしょう。
当院では、7歳を過ぎた猫ちゃんでは少なくとも半年に1回程度を目安に健康状態を確認することをおすすめしています。
年齢、持病、過去の検査結果などによっては、さらに短い間隔でのチェックをご提案する場合があります。
早期に慢性腎臓病を発見できれば、状態に応じて、
- 腎臓病用療法食による食事管理
- リン吸着剤によるリンのコントロール
- タンパク尿や高血圧に対する治療
- ベラプロストなどを用いた治療
- 脱水に対する輸液療法
- 低カリウム血症への対応
- 貧血への治療
- 悪心・嘔吐や食欲低下への治療
など、さまざまな方法で腎臓病の進行を抑え、生活の質を維持することができます。
中でも腎臓病用療法食は、猫の慢性腎臓病において有用性を支持するエビデンスが豊富な治療のひとつです。
治療方針は、IRIS(International Renal Interest Society)のCKDステージ分類を参考に決定します。
クレアチニンやSDMAなどから腎機能を評価し、さらにタンパク尿と血圧によるサブステージ分類を行うことで、その猫ちゃんに必要な治療を検討します。
そのため、自己判断で療法食やサプリメントを開始するのではなく、まず現在の腎臓の状態を正確に評価することが大切です。
近年では、AIM(CD5L)を利用した新しい猫の腎臓病治療も研究・開発が進められています。
非常に期待されている分野ですが、新しい治療が登場しても、すでに失われた腎機能を完全に元通りにできるとは限りません。
だからこそ、
「症状が出てから治療する」のではなく、「症状が出る前から腎臓の状態を把握しておく」
ことがこれまで以上に重要になります。
新しい治療法が利用できるようになった際にも、その恩恵を最大限受けるためには、早期発見と適切な管理が重要です。
お家でできる腎臓ケア
- 水飲み場を複数用意する
- ウェットフードを活用して水分摂取量を増やす
- 猫が好む器や給水器を探す
- トイレを清潔に保ち、十分な数を用意する
- 夏場などは特に脱水に注意する
- 定期的に体重を測る
- 飲水量や尿量の変化を観察する
■ 5. 当院(ヴァンケット動物病院 三宿動物医療センター)の猫ちゃんへの取り組み
「健康診断を受けさせたいけれど、病院に連れて行くとパニックになってしまうから……」
と諦めていませんか?
ヴァンケット動物病院 三宿動物医療センターでは、猫ちゃんのストレスをできるだけ少なくしながら診療・検査を行える環境づくりに力を入れています。
当院は、国際的な猫の医療基準に基づくCat Friendly Clinicのゴールド認定を受けています。
- ワンちゃんと分離された猫専用エリア・診察室
- 猫の行動やストレスに配慮した診療
- 日本獣医腎泌尿器学会認定医による腎・泌尿器疾患の診療
病院が苦手な猫ちゃんでも、できるだけ落ち着いて健康診断を受けられる環境を整えています。
通院ストレスを減らす「おうちでの準備」
- キャリーバッグを普段から部屋に出しておく
- 中に普段使っている毛布などを入れ、安心できる場所にする
- 上部が開くタイプや、上下に分解できるキャリーを利用する
- キャリー全体をタオルで覆い、周囲からの刺激を減らす
- 必要に応じて猫用フェロモン製剤を利用する
- 通院時の恐怖や興奮が強い場合には、来院前に使用するお薬をご提案できることもあります
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猫ちゃんをキャリーに入れる工夫や通院前の準備・持ち物については、こちらの記事でも詳しく解説しています。受診前にぜひあわせてご覧ください。
▶ 初めての動物病院マニュアル|動物(犬・猫・小動物)を連れて行く前の準備・持ち物・キャリーの工夫 ↗「暴れるから病院へ連れて行けない」と諦める前に、ぜひ一度ご相談ください。
■ まとめ:愛猫の「未来の元気」を今から守りましょう
慢性腎臓病は、現在の獣医療では完全に元通りにすることが難しい病気です。
しかし、早期に発見し、その猫ちゃんの状態に合った管理を続けることで、進行を抑えながら良好な生活の質を長く維持できる可能性があります。
そして慢性腎臓病を早期に見つけるために最も大切なのは、
「元気だから検査しなくて大丈夫」ではなく、「元気なうちに検査しておく」ことです。
「最近、お水をよく飲む気がする」
「猫砂の固まりが大きくなった」
「少し痩せてきた気がする」
「7歳を過ぎたので、一度しっかり全身をチェックしておきたい」
そんな小さなきっかけで構いません。
気になることがありましたら、ヴァンケット動物病院 三宿動物医療センターまでお気軽にご相談ください。
愛猫と飼い主様が、一日でも長く健やかな時間を一緒に過ごせるようサポートいたします。
猫の健康診断(シニアドック・キャットドック)・腎臓病のご相談
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