【獣医師解説】犬の膝蓋骨内方脱臼(通称パテラ)|後ろ足を上げる・スキップする症状はありませんか?
犬が突然、後ろ足を上げる原因とは?
「散歩中に急に後ろ足を上げる」
「スキップするような歩き方をする」
「数歩歩くと、何事もなかったように普通に戻る」
愛犬にこのような症状がみられる場合、「膝蓋骨内方脱臼(しつがいこつないほうだっきゅう)」の可能性があります。
一般的に飼い主さんの間では「パテラ」と呼ばれることが多いですが、パテラとは本来「膝蓋骨(膝のお皿)」そのもののことで、病気としての正確な名称は「膝蓋骨内方脱臼(Medial Patellar Luxation:MPL)」と言います。
膝蓋骨内方脱臼は、トイプードルやチワワなどの小型犬で特によくみられる代表的な整形外科疾患です。進行すると関節炎を悪化させたり、「前十字靱帯断裂(ぜんじゅうじじんたいだんれつ)」というさらなる大怪我につながることもあるため、早期発見・早期治療が非常に重要です。
1. 犬の膝蓋骨内方脱臼とはどんな病気?
膝蓋骨内方脱臼とは、本来であれば大腿骨の溝(滑車溝)に収まっているはずの膝蓋骨(膝のお皿)が、正常な位置から内側(内股の方向)へ外れてしまう病気です。
特に以下の小型犬種で発生が多く認められます。
- トイプードル
- チワワ
- ポメラニアン
- ヨークシャーテリア
- マルチーズ
- 柴犬
多くは先天的な骨格の異常(生まれつき溝が浅い、靭帯の付着部がずれているなど)が原因であり、生後数ヶ月〜若齢の段階から認められることも少なくありません。
2. 膝蓋骨内方脱臼が疑われる犬の初期症状・歩き方の特徴
愛犬に以下のようなサインはありませんか?
- 後ろ足を時々ピクッと上げる、ケンケンする
- スキップするようにリズミカルに歩く
- 走っている途中で、一瞬だけ足を浮かせる
- お散歩やドッグランで走るのを嫌がるようになった
- ソファやベッドへのジャンプをしなくなった
- 後ろ足の形が変形してきた(O脚のようになっている)
軽症(初期ステージ)の場合、脱臼しても数歩歩くとお皿が自然に元の位置に戻るため、症状が一時的で見逃されてしまうことも少なくありません。「たまに変な歩き方をするけれど、すぐ元通りになるから大丈夫」と放置せず、早めに動物病院を受診することが大切です。
3. ヴァンケット動物病院 三宿動物医療センターで行う膝蓋骨内方脱臼の検査・診断方法
当院では、ワンちゃんの負担を最小限に抑えつつ、以下の検査を組み合わせて正確な診断を行います。
触診・身体検査
獣医師が実際に膝関節に触れ、お皿がどの程度動きやすいか、手で押したときにどの段階で脱臼するか(グレードの評価)を丁寧に確認します。同時に、痛みや関節の緩みがないかもチェックします。
レントゲン検査
レントゲン撮影を行うことで、以下の重要な情報を確認します。
- 太ももやスネの骨の変形度合い
- 滑車溝(お皿の溝)の深さ
- 関節炎がどの程度進んでいるか
- 前十字靱帯断裂を併発していないか
4. 膝蓋骨内方脱臼の「4つのグレード分類」と症状の目安
膝蓋骨内方脱臼は、進行度合いによってステージ1〜4の「グレード」に分類されます。
グレード1【軽度】
手で押すと簡単にお皿が脱臼するが、手を離すと自然に元の位置に戻る。普段は普通に歩いているため、健康診断などで偶然見つかることが多い段階です。
グレード2【中等度】
膝を曲げたり日常の動作の中で自然に脱臼するが、足を伸ばしたりすると自然に元に戻る。時々足をパッパッと後ろに伸ばしたり、スキップのような歩き方をしたりする症状が出始めます。
グレード3【重度】
お皿が常に(年中)脱臼している状態。手で押せば一時的に元の位置に戻せますが、離すとすぐにまた外れてしまいます。後ろ足を曲げ気味に歩くようになり、お散歩やジャンプを嫌がるようになります。
グレード4【最重度】
お皿が完全に外れ、手で押しても元の位置に戻りません。骨の変形が著しく進み、足を地面につけずにうずくまるように歩くなど、日常生活に大きな支障が出ます。
5. 膝蓋骨内方脱臼の治療法:内科治療と外科治療(手術)
治療には、症状をコントロールする「内科治療」と、構造そのものを治す「外科治療(手術)」の2つがあります。
- 治療内容: 体重管理(減量)、消炎鎮痛剤による疼痛管理、サプリメントの服用、レーザー治療、激しいジャンプの制限(安静)など。
⚠️ 知っておいていただきたいこと
内科治療は、あくまで「関節の炎症や痛みを和らげるための処置」であり、外れてしまっている骨の構造を元に戻す(根本的に治癒させる)ことはできません。しかし、グレードが低く症状が落ち着いている子の進行を遅らせたり、痛みのない生活を維持したりするためには、非常に重要なアプローチです。
根本的な解決や、将来的な歩行障害を防ぐために、以下のケースでは手術を強くおすすめしています。
- 足を痛そうに引きずって歩く(跛行がある)
- 足をあげる頻度が明らかに増えている
- グレード2であっても、痛みや歩行異常などの症状が頻繁に出る
- すでにグレード3以上に進行している
- 若齢(子犬期など)で、骨の変形がどんどん進行している
- 前十字靱帯断裂を併発している
6. 当院で行う膝蓋骨内方脱臼の手術
当院では、ワンちゃんの骨の変形度合いや年齢に合わせて、以下の複数の術式を最適に組み合わせる「オーダーメイド手術」を行います。
滑車溝形成術(かっしゃこうけいせいじゅつ)
浅くなってしまっている大腿骨の溝(お皿が収まる溝)を、削って深く整え、お皿が左右に飛び出さないようにする手術です。
脛骨粗面転位術(けいこつそめんてんいじゅつ)
お皿に繋がっている靭帯の付着部(スネの骨の突起部分)を一度切り離し、お皿が真っ直ぐ動くように正しい位置へ移動させてピンで固定する手術です。
軟部組織のバランス調整
- 関節包縫縮(かんせつほうほうしゅく): 脱臼によって伸び切ってしまった外側の組織を縮めて縫い合わせ、お皿を引っ張る力を強めます。
- 内側リリース: お皿を内側に引っ張り続けている硬くなった筋肉や組織を適切に解放(切開)します。
7. 術後の経過と入院・安静期間
多くの症例で、手術後は痛みから解放され、非常に良好な歩行機能の回復が期待できます。
入院期間の目安
手術内容やワンちゃんの状態によりますが、通常5日〜7日間の入院となります(※平均的な入院日数を記入)。入院中は徹底したペインコントロール(痛みの管理)を行い、安心できる環境で過ごさせます。
※当院の入院施設(入院棟)
退院後の安静管理とリハビリ
退院後、骨が完全にくっつくまで約2ヶ月間の安静期間が必要です。お家ではサークル内での生活を基本とし、当院での定期検診と並行して、段階的なリハビリテーション(マッサージや軽い歩行訓練など)を行いながら、焦らず回復をサポートしていきます。
8. まとめ:愛犬の歩き方に異変を感じたらお早めにご相談ください
膝蓋骨内方脱臼(通称パテラ)は、小型犬を飼う上で決して無視できない身近な病気です。
「たまにスキップするだけだから」「痛がっていないから」と思っていても、関節の中では少しずつ摩耗が進み、シニア期になってから深刻な痛みや歩行困難として跳ね返ってくることがあります。早期に発見し、その子に合った適切なケアや手術を行ってあげることこそが、生涯元気に走り回れる未来に繋がります。
愛犬の歩き方、後ろ足の様子に少しでも気になる点や違和感がありましたら、どうぞお気軽にヴァンケット動物病院 三宿動物医療センターまでご相談ください。一頭一頭の未来に寄り添った最適な治療法を、ご家族と一緒に考えてまいります。
