【体重・シニア】シニア猫が「よく食べるのに痩せていく」?甲状腺機能亢進症と糖尿病のサイン
「うちの子、シニアになったのによくごはんを欲しがって元気いっぱい!」
「食欲旺盛なのに、背中を撫でると骨がゴツゴツして、痩せてきた気がする……」
中高齢の猫のご家族から、このようなお話を伺うことがあります。
「しっかり食べているから健康」「歳をとったから痩せてきただけ」と見過ごしてしまいがちですが、食べる量が変わらない、あるいは増えているのに体重が落ちる場合は、病気が隠れている可能性があります。
代表的な病気が「甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)」と「糖尿病」です。
今回は、この2つの病気の特徴や注意したい症状、動物病院で行う検査・治療について解説します。
猫の糖尿病ではインスリン注射が重要な治療ですが、国内では1日1回の経口薬「ベラグリフロジン(商品名:センベルゴ)」も承認されています。
ただし、すべての猫に適しているわけではありません。治療前の検査と、投与開始後の慎重な確認が必要です。
1.なぜ「食べているのに痩せる」のか?
食事から取り込んだ栄養は、体を動かすエネルギーとして使われ、筋肉や脂肪などを維持します。
ところが、代謝に関わるホルモンに異常が起こると、栄養の使われ方が変わってしまいます。
甲状腺機能亢進症では、全身の代謝が過剰に高まり、エネルギーを必要以上に消費します。糖尿病では、インスリンの作用が不足して糖を十分に利用できず、尿中にも糖が失われるため、筋肉や脂肪の分解が進みます。
その結果、よく食べていても、体重や筋肉が減ってしまうのです。
この2つ以外の病気でも起こります
「よく食べるのに痩せる」場合は、次のような病気も調べます。
- 消化器型リンパ腫・慢性炎症性腸症(CIE)
腸の病変によって栄養の吸収が妨げられます。嘔吐や下痢を伴うことがありますが、体重減少が主な症状となる場合もあります。 - 慢性腎臓病
筋肉量や体重が減少します。進行すると食欲が落ちることが多いものの、初期には食欲が保たれている場合もあります。 - 膵外分泌不全(EPI)
消化酵素が不足し、栄養を十分に消化・吸収できなくなります。便の量が増える、軟便になるなどの変化を伴うことがあります。 - 寄生虫感染
年齢や生活環境、保護された経緯などに応じて検査を検討します。
また、「食べたそうにするけれど、口の痛みで十分に食べられていない」場合もあります。食欲の有無だけでなく、実際に食べた量を確認することが大切です。
高齢猫では加齢に伴って筋肉量が減ることもありますが、病気による変化との区別は、ご家庭だけではできません。
ゆっくりした体重減少でも、食欲や飲水量に変化がなくても、減少が続く場合はご相談ください。
体重の5%、例えば4kgの猫で200gの意図しない減少は、受診を考える一つの目安です。ただし、その量まで減るのを待つ必要はありません。
2.代表的な原因「甲状腺機能亢進症」と「糖尿病」
甲状腺機能亢進症
のど元にある甲状腺の組織が増殖し、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。特に10歳以上の猫で多くみられます。
原因となる甲状腺の変化の多くは良性の過形成や腺腫で、悪性腫瘍である甲状腺癌は少数です。
体の状態をたとえると、全身の代謝が「アクセルを踏み続けた状態」になっています。
主な症状- 食欲が増す、頻繁にごはんをねだる
- 体重や筋肉が減り、背骨や腰回りが目立つ
- 落ち着きがなくなる、活動量が増える
- 夜鳴きや大きな声で鳴くことが増える
- 水を飲む量や尿量が増える
- 嘔吐や下痢、軟便を繰り返す
- 被毛がボサボサになる
- 心拍数が増える
- 暑がるようになる
「歳をとったのに急に活発になった」「若返ったように見える」と受け取られることもあります。
ただし、夜鳴きや落ち着きのなさは、甲状腺の病気だけでなく、高血圧、痛み、認知機能の変化などでも起こります。症状だけで決めつけず、検査で原因を調べます。
甲状腺機能亢進症でも、食欲不振や元気消失が目立つことがあります。「食欲旺盛ではないから違う」とは言い切れません。高齢猫の体重減少では、ほかの病気と合わせて甲状腺の検査を検討します。
猫の糖尿病
高血糖の血糖値測定器の写真
膵臓から分泌される「インスリン」の効きが悪くなったり、分泌量が不足したりして、血液中の糖を十分に利用できなくなる病気です。
血糖値が高くなり、尿中にも糖が排出されます。
主な症状- 水を飲む量が増え、尿量も増える
- トイレの砂の塊が以前より大きくなる
- 食欲があるのに体重が減る
- 後ろ足のかかとを床につけて歩く
- グルーミングが減り、毛並みが悪くなる
- 進行すると食欲不振、元気消失、嘔吐が起こる
後ろ足のかかとをつける歩き方を「蹠行(しょこう)」といい、糖尿病に伴う末梢神経障害でみられることがあります。
- 肥満
- 中高齢
- オス、特に去勢済みのオス
- 運動不足
- ステロイド剤や一部のホルモン剤の使用
- 膵炎などの膵臓の病気
- インスリンの働きを妨げるほかのホルモンの病気
肥満は重要なリスク因子ですが、痩せている猫でも糖尿病になることがあります。
水を飲む量は、ドライフードとウェットフードの割合、気温、活動量などによって変わります。
「水の減りが早い」「給水器に行く回数が増えた」「尿の塊が大きくなった」といった変化に注目してください。
可能であれば、1日に入れた水と残った水の量を記録すると診察に役立ちます。多頭飼育では、どの猫が飲んだか分からないこともあるため、その点もお伝えください。
甲状腺機能亢進症と糖尿病が同時に起こることもあります。また、慢性腎臓病、高血圧、心臓病などが重なる場合もあります。
一つの病気が見つかっても、それだけで症状のすべてを説明できるとは限りません。高齢猫では、全身の状態を確認することが大切です。
3.放置するとどうなる?注意したい合併症
甲状腺機能亢進症の合併症
心拍数の増加や心筋の変化が起こり、重症例では心不全による呼吸困難につながることがあります。心疾患を併発している場合は、血栓塞栓症にも注意が必要です。
高血圧によって、目、脳、腎臓などに障害が起こることがあります。網膜剥離による突然の視力低下・失明も重要な合併症です。
体重だけでなく筋肉も失われ、ジャンプや歩行など、日常の動作に影響することがあります。
「瞳孔が開いたまま」「急に壁にぶつかる」「後ろ足が突然動かない」「強い痛みで鳴く」場合は、すぐに動物病院へご連絡ください。
糖尿病の合併症
インスリンの作用が著しく不足し、ケトン体が増えて血液が酸性に傾く、命に関わる状態です。脱水、食欲不振、嘔吐、元気消失などが起こり、入院での集中治療が必要になります。
糖尿病では尿路感染症を併発することがあります。必要に応じて尿培養検査などで確認します。
食べられない状態が続くと、肝臓に脂肪が蓄積し、肝機能に障害が起こることがあります。
後ろ足の力が弱くなり、蹠行などの歩行異常がみられます。血糖管理によって改善する場合がありますが、回復に時間がかかったり、症状が残ったりすることもあります。
特に、呼吸が深く速い、立てない、反応が鈍い場合は緊急です。
息に甘酸っぱいにおいがすることもありますが、においがなくてもDKAは否定できません。
4.動物病院で行う検査と診断の流れ
「食べているのに痩せてきた」という場合、症状や診察所見に応じて、次の検査を組み合わせます。
① 問診・身体検査
食事の内容と実際に食べた量、体重の変化、飲水量、尿量、嘔吐・下痢の有無、使用中のお薬などを確認します。
身体検査では、以下を評価します。
- 体重
- 脂肪の付き方をみる体格スコア(BCS)
- 筋肉量をみる筋肉量スコア(MCS)
- 甲状腺の触診
- 心拍数や心雑音
- 脱水の有無
- 口の中の状態
必要に応じて、血圧測定や眼底検査も行います。脂肪が残っていても筋肉だけが減っている場合があるため、体重とBCSだけでなく、MCSも重要です。
② 血液検査
- 甲状腺ホルモン(Total T4):甲状腺機能亢進症を調べる基本的な検査です。
- 血糖値・フルクトサミン:糖尿病の評価に用います。フルクトサミンは、直近1〜2週間程度の血糖状態を反映する指標です。
- 血球検査・腎臓や肝臓の数値・電解質など:全身の状態や併発疾患を確認します。必要に応じてSDMAや血中ケトン体なども測定します。
初期の病気や、ほかの病気を併発している場合は、Total T4が基準範囲内となることがあります。症状や診察所見から疑われるときは、期間をあけた再検査やfree T4などの追加検査を検討します。追加検査の数値だけでなく、全体を合わせて判断します。
病院でのストレスによって、一時的に血糖値が高くなる「ストレス性高血糖」が起こります。そのため、1回の血糖値だけで糖尿病と診断せず、症状、尿糖、フルクトサミン、必要に応じた自宅での血糖測定などを組み合わせます。なお、甲状腺機能亢進症などがあると、フルクトサミンが低めに出る場合もあります。
③ 尿検査
尿糖、ケトン体、尿比重、細胞や細菌の有無などを調べます。
尿比重は腎臓の評価にも役立ちますが、糖尿病では尿糖の影響も受けるため、血液検査などと合わせて判断します。
ご自宅で採った尿が役立つ場合もあります。採尿方法や保存方法は、事前にお問い合わせください。細菌培養検査が必要な場合などは、病院で膀胱から直接採尿することがあります。
④ 画像検査
必要に応じて、超音波検査やレントゲン検査を行います。
心臓の大きさや機能、肝臓・膵臓・腎臓・消化管などの状態を確認し、リンパ腫など、ほかの体重減少の原因も調べます。
5.治療法:早期発見と継続的な管理が大切です
治療は、病気の重症度だけでなく、併発疾患、猫の性格、ご家族が続けやすい方法も考慮して選びます。
甲状腺機能亢進症の治療
甲状腺ホルモンの過剰な合成を抑える薬です。この方法で管理する場合は、原則として継続的な投薬が必要です。
副作用として、食欲不振、嘔吐、顔や首の強いかゆみ、肝障害、血球数の減少などが起こることがあります。
通常は投与開始後2〜4週間程度を目安に再検査を行い、その後も状態に応じてホルモン値、腎機能、血球数などを確認します。気になる症状があれば、予定の再診日を待たずにご相談ください。
ヨウ素を制限した専用の療法食で、甲状腺ホルモンの産生を抑える方法です。
十分な効果を得るには、原則として指定された療法食だけを食べる必要があります。 おやつ、ほかの猫のフード、人の食べ物なども影響するため、生活環境や併発疾患に応じて適応を判断します。
異常な甲状腺組織を摘出し、根治を目指す方法です。
麻酔のリスクや、副甲状腺の損傷に伴う低カルシウム血症などに注意が必要です。病変の位置や広がり、全身状態を評価して検討します。
海外では広く行われている根治療法ですが、日本国内では一般的に受けられる治療ではありません。
甲状腺ホルモンが過剰な間は腎臓の血流や濾過が増え、筋肉量の減少も影響して、腎機能の低下が検査で分かりにくいことがあります。
治療後に、それまで隠れていた腎機能の低下が明らかになる場合があります。また、甲状腺ホルモンが下がりすぎても腎機能に影響するため、両方を確認しながら調整します。
糖尿病の治療
不足しているインスリンの作用を補う、重要な治療です。
注射の回数や時刻、食事との関係は、使用する製剤と猫の状態によって異なります。当院では、注射器の扱い方や注射部位、食べないときの対応まで、ご家族に練習していただきながら説明します。
初めは不安があっても、ご家庭で続けられるようサポートします。
糖尿病では、低炭水化物の食事が血糖管理に役立つことがあります。
ただし、慢性腎臓病などを併発している場合や、痩せている場合には、栄養の優先順位が異なります。その子に必要なカロリーと栄養を確保しながら、食事を選びます。
肥満がある場合は計画的な減量を行いますが、急な食事制限は避けます。また、食事変更によって必要なインスリン量が変わることがあるため、獣医師に相談しながら進めてください。
ベラグリフロジン(商品名:センベルゴ)は、腎臓での糖の再吸収を抑え、余分な糖を尿中に排出させる1日1回の経口薬です。
適切に選択された猫では、注射以外の治療の選択肢になります。ただし、インスリンの代わりとして、すべての猫に使用できる薬ではありません。
- ケトアシドーシスや糖尿病性ケトン尿症がある場合、静脈内補液が必要な重度の脱水がある場合には使用できません。
- 食欲、脱水、膵炎などの併発疾患を評価し、適応を判断します。
- 重度の腎疾患など、安全性・有効性が確認されていない条件があります。
- インスリンからの変更は、ご家族の判断では行わず、獣医師の管理下で慎重に検討します。
- 投与中は、特に開始直後のケトン体の確認を含め、定期的な診察・検査が必要です。
最も注意したいのが、血糖値が高くなくても起こる「正常血糖性ケトアシドーシス」です。
投与中に食欲低下、嘔吐、元気消失、脱力などが起きた場合は、投与を中止して直ちに動物病院へご連絡ください。血糖値が正常でも、安心はできません。
猫の糖尿病では、治療によって血糖が改善し、インスリン注射などの治療が不要になる「寛解」に至る場合があります。
寛解の可能性は、発症からの期間、残っている膵臓の機能、併発疾患、治療への反応などによって異なります。早期に治療を始め、無理なく良好な血糖管理を続けることが大切です。
寛解後も再発することがあるため、体重、飲水量、尿量などの観察を続けます。薬の減量・中止は、必ず獣医師の指示に従ってください。
耳介などから少量の血液を採る方法や、皮膚に装着する持続血糖測定器を利用することがあります。
通院によるストレスの影響を減らし、日常生活での血糖の変化を把握する助けになります。測定方法や数値の見方は、ご家族と相談しながら説明します。
インスリンが効きすぎると、ふらつき、脱力、震え、ぐったりする、痙攣するなどの症状が出ることがあります。
低血糖が疑われる場合は、事前に説明された方法で、ブドウ糖液や糖分を含むシロップを少量、歯ぐきに塗り、直ちに動物病院へご連絡ください。
意識が悪い猫に液体を流し込んだり、無理に飲食させたりしないでください。痙攣中は口の中に指を入れないでください。
応急処置で改善しても再び低血糖になる場合があるため、必ず獣医師の指示を受けましょう。
6.当院でのシニア猫ケア
「病院に連れて行くだけで興奮してしまう」
「高齢だから通院のストレスが心配……」
このようなお悩みも、遠慮なくご相談ください。
ヴァンケット動物病院 三宿動物医療センターは、国際猫医学会(ISFM)のキャット・フレンドリー・クリニック・ゴールド認定を取得しています。
猫・小動物専用の待合スペースを設け、猫の性格や体調に配慮した診療を行っています。
また、日本獣医腎泌尿器学会認定医を含む複数の獣医師が知見を共有し、甲状腺や血糖の管理に加えて、腎臓などの併発疾患も含めて診療します。
- 猫の負担を抑える診察・保定
- 投薬が難しい場合の方法の相談
- ご自宅でのインスリン注射の指導
- 必要に応じた自宅での血糖測定のサポート
- 体調や併発疾患に合わせた食事・栄養管理
猫とご家族が無理なく続けられる治療プランを、一緒に組み立てていきます。
通院ストレスを減らすために、ご自宅でできること
- キャリーを普段から部屋に出しておく
寝床や休憩場所として使えるようにし、通院のときだけ登場するものにしないことが大切です。 - 上部を外せるキャリーを選ぶ
猫を無理に引き出さず、キャリーの下半分に入ったまま診察できる場合があります。 - 使い慣れたタオルを入れる
移動中はキャリーにタオルをかけ、周囲の刺激を減らす工夫も役立ちます。通気や暑さには注意してください。 - 強く興奮する場合は、来院前に相談する
状態に応じて、通院前のお薬をご提案できる場合があります。
まとめ:食欲があっても、体重減少は相談のサインです
猫は被毛に覆われているため、見た目だけでは体重や筋肉の減少に気づきにくいことがあります。
できればご自宅で週1回程度、難しい場合も月に数回、同じ条件で体重を測り、日付とともに記録してみてください。
ペット用体重計のほか、「猫を抱いたご家族の体重」から「ご家族だけの体重」を引く方法もあります。ただし、人用体重計では小さな変化を捉えにくいため、気になる場合は病院で確認しましょう。
体重の5%、4kgの猫なら200gの意図しない減少は、一つの受診目安です。ただし、そこまで減るのを待つ必要はありません。
「食べる量が増えたのに痩せてきた」
「水を飲む量や尿量が明らかに増えた」
「背骨や腰の骨が以前より目立つ」
このような変化があれば、「歳のせい」と決めつけずにご相談ください。
当院では、7歳頃から年1回、10歳を過ぎたら年2回を目安とした健康診断をおすすめしています。すでに病気がある場合は、その子に合わせた間隔で確認します。
元気に見えるうちから体重や検査値の変化を追うことが、病気の早期発見につながります。気になる変化がありましたら、ヴァンケット動物病院 三宿動物医療センターまでお気軽にご相談ください。
シニア猫の「食べるのに痩せる・多飲多尿・甲状腺や糖尿病の検査」のご相談
診察・検査のご予約はお電話にて承っております。
