【獣医師執筆】悪性腫瘍(がん)の診断・治療

世田谷区の動物病院 ヴァンケット動物病院 三宿動物医療センターです。
今日は高齢の動物で発生の多い、悪性腫瘍(がん)についてお伝えします。

悪性腫瘍(がん)の診断に欠かせないこと

動物は、高齢になってくると悪性腫瘍(がん)の発生率が高くなります。それは、ヒト、犬、猫に限らず、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類全般にあてはまります。無脊椎動物においても、ミミズやゴキブリなどで腫瘍の発生が報告されています。

動物の体にできものがあったとしても、すべてが腫瘍とは限りません。炎症、膿瘍、過形成などの腫瘍以外のできもののこともあるからです。また、腫瘍にも大きく分けて良性と悪性という区別があります。

できものを診断するに当たっては、細胞または組織を検査する必要があります。見た目や大きさ、増大傾向などから判断を行うことは危険です。

通常は、まず細胞診をおこないます。細胞診は注射針で針先程の細胞を採り、染色して細胞の形態をみる検査です。細胞診では、そのできものが腫瘍なのかどうかある程度の目安が得られます。また、ハイグレードのリンパ腫、肥満細胞腫、悪性黒色腫などは細胞診でも診断できることがあります。

細胞診でうまく細胞が採取できないときや、判断がつきにくいとき、腫瘍が疑われるときは、より詳細な診断のために、組織検査を行います。組織検査は、True-cut生検、パンチ生検、切除生検などの方法で、少量の組織を採取し、病理組織学的検査を行う検査です。組織検査により、腫瘍の種類、悪性度などが決定されます。

メラノーマ(悪性黒色腫)
メラノーマ(悪性黒色腫)

細胞診や組織検査で腫瘍が確定された場合、次のステップとして全身状態の評価とリンパ節転移、遠隔転移の評価を行います。そのため、血液検査、X線検査、超音波検査、尿検査、凝固系検査、各種内分泌検査などを行います。

悪性腫瘍(がん)の治療は総合格闘技

腫瘍の治療法は様々な方法がありますが、多くの腫瘍では、外科手術、放射線治療、化学療法が治療の柱となります。

悪性腫瘍の場合には、外科手術を行う場合に、できものだけを取ることは再発を招きやすいため、可能であれば広範囲切除を行います。できるだけ広く深く取るとともに、腫瘍細胞を散布しないようにエンブロック切除を心がけます。エンブロック切除とは、腫瘍本体にメスをいれずに周りの組織ごと切除を行う方法です。細胞診などの生検で使用した経路もすべて含めて切除します。この方法により、術創への腫瘍細胞の散布を最小限にすることができます。広範囲切除後は、皮膚が寄らない場合もありますが、その場合は皮弁を作って転移するか、メッシュを形成します。

生検部位を含めた広範囲切除
生検部位を含めた広範囲切除

術後は、適切な放射線治療や化学療法を行うと再発・転移を抑制できることがあります。

放射線治療は、大学や一部の専門病院にしか設備がありません。そのため、当院では希望があれば紹介するかたちをとっています。

化学療法は、抗がん剤を使用する治療法です。通常、固形腫瘍には化学療法の効果が薄いため、手術後の補助療法として使用します。リンパ腫や肥満細胞腫などの腫瘍では、化学療法の効果が高いため、治療の主体となることもあります。

抗がん剤というとイメージが悪いですが、重度な副作用がでないようしっかりとモニターしながら治療を行うと、動物の生活の質が良い状態で保てることも多いため、適応症例には積極的に行っています。

悪性腫瘍に対しては、様々な治療法を組み合わせて行う集学的治療が必要です。治療計画を綿密に立てて治療をしなければ、悪性腫瘍を抑制することは非常に困難です。

当院では腫瘍2種認定獣医師が常駐しておりますので、腫瘍の種類やその子の状態、飼い主様のご意向などを踏まえて綿密に治療計画を立てて腫瘍の治療を実施しております。腫瘍でお困りの方はお気軽にご相談ください。

この記事を書いたのは

院長

ヴァンケット動物病院 院長 松原 且季
日本獣医がん学会 獣医腫瘍科Ⅱ種認定医
プロフィール